映画 ロリータを観た

ナボコフによる原作を読んだ後で、1997年発表のエイドリアン・ライン監督による映画「ロリータ」を観た。

まず最初に言及せねばならないのはロリータ役のドミニク・スウェインだろう。彼女の演技は悪くなかったし、原作のロリータの持つ「下品で生意気な」雰囲気を上手くだしていたと思う。しかしいかんせん原作のロリータの12歳という設定とドミニクの当時の実年齢の15歳との間の差はいかんともしがたかった。実際に12歳の少女にこの映画にあるような性的なシーンを演じさせるわけにはいかないだろうが、そこら辺は直接的でない表現を用いてもいいからロリータ役の少女の年齢にこそこだわって欲しかったと思う。この作品はポルノ的な描写を売りにしているわけではないのだ。ハンバート氏いわく「ニンフェット」の蟲惑的な魅力を描く事の方が大事だろう。確かに一般的な世の男性にとっては15歳というだけで十分衝撃的だとは思うが、原作を読んだ後では思い描くロリータとは違う印象を受けざるを得ない。

それに対してハンバート役のジェレミー・アイアンズはハマリ役だと思う。物語が進むにしたがって次第にハンバートの精神が病んでいく過程の演技は良かった。時間的な制約からくる演出に多少の不満はあったが、そこら辺は仕方がないだろう。

最も良かった点は映像という形になる事によって、作品が描く当時のアメリカの風景が自分の頭のイメージと結びついた事だ。もともとナボコフの文章は訳文で読んでもいささか難解というか想像力を総動員しないと情景を思い描きにくい部分があったが、原作の文章を思い出しながら映像を見ると脳内のイメージとぴたりとはまった。おそらくこの後でもう一度原作を読み返すと、よりナボコフが描いたロリータの世界が鮮明に私の頭の中で再現されるはずだ。ただしその時はドミニク・スウェインの演じるロリータのイメージは頭から排除せねばならない。