手塚治虫 寄子を読んだ

手塚治虫の寄子(あやこ)を読んだ。

手塚作品の中でも、鉄腕アトムやブラックジャックなどの人気作品とは別の意味で名作との呼び声の高いこの作品だが、少し読めばその意味がすぐに解ると思う。

当時はまだ漫画といえば子供が読むものだという風潮があった当時において、大人が読むに耐える文学的世界観を持っているからだ。テーマとしては近親相姦や戦後の混乱期の社会問題などを扱っており手塚治虫のこの作品に対する意欲が伺える。手塚はあとがきで「ドストエフスキーのカラマーゾフの兄弟のような作品を描きたかった」という趣旨を述べており、天外家の人物設定などに影響が見られる。同じくドフトエフスキーの「罪と罰」も漫画化している手塚がどのような作品を描きたかったのかは想像い難くない。

同じくあとがき内ではこうも言っている、「この作品はもっと長編になる予定であった」、「寄子はいちおう三巻でまとまっているが、物語はこのあと彼女の不思議な人生を追って発展することになる」、「いずれタイトルをあらためてどこかに発表したい」。もちろんその後エピソードが描かれる事はなかったのだが、前述のカラマーゾフの兄弟も本来は二部構成である物語が作者の死によって一部のみの発表で未完に終わっている。

そこで私はふと思う、この寄子という作品は作者の言うとおりもっと長い作品の序章にすぎず続編が描かれるはずだったのであろうか。それともわざと「寄子のその後」があるかの様に匂わせて、読者に想像の翼をひろげてもらおうとの意図だったのであろうかと。

近年漫画家の浦沢直樹が鉄腕アトムをリメイクした「PLUTO」という作品を発表して話題となったが、誰かこの寄子の続編を描こうという勇気ある漫画家はいないものだろうか?