.jp.net ドメインを取得する際の注意点

私が日頃ドメイン管理やサイト運用に愛用している Value-Domain というドメイン登録代行業者が、最近 .jp.net というあまり聞きなれないドメイン名を新規登録1年920円で販売している。

少し前に GMO インターネットグループの子会社となって以来、ドメイン価格を下げたりいろいろと割引キャンペーンをやっているのは良いのだが、このドメインはちょっと怪しげだったの調べてみたら、そのGMOのプレスリリースにその .jp.net についての記事があった。

それによると

“.jp.net”ドメインは、CentralNicがレジストリとして管理している「サードレベル.netドメイン」のうちの1つです。

GMOインターネット社 プレスリリースより

つまりこれは世界のドメイン名を管理する非営利団体である ICANN (Internet Corporation for Assigned Names and Numbers) 公認のドメイン名ではなく、あくまで民間の CentralNic という会社が販売しているサードレベルドメインだと言う事だ。.co.jp のような JPRS (日本レジストリサービス) が管理する属性型jpドメインでもない。解り易く言うなら無料ブログや無料サイトなどで取得できるサブドメインと本質的にはあまり変わらないと言うことだ。GMO は .jp.net がICANN非公認である事を曖昧にしているが、ドメインネーム.jp という登録代行業者はWEBサイトに「ICANN公認の新ドメインではありません」としっかりと記載している。ちなみにこの CentralNic は他にも .us.com , .uk.com , uk.net , .cn.com , .com.de など世界中で似たような事をしている。

さてこれによってどういう問題が起きるだろうか。

第1に、ICANN非公認である以上、知的所有権・商標権などに関するドメイン紛争が起きた場合、WIPO (世界知的所有権機関) による調停が行われない。

調停を行うのは営利企業である CentralNic であり、WIPO のアドバイスを受けて作成された独自の紛争解決ポリシーによって判断される。しかしこのようなポリシーがあった所で、営利企業である CentralNic の実際の判断の公平性が保証されている訳ではないので、CentralNic により多くの金を積んだ企業にドメイン名を取られてしまう、なんて事が起きる可能性は否定できないだろう。

第2に、ICANN非公認である以上、価格の決定は CentralNic の自由であり、いつ何時更新価格が跳ね上がるか解らない。

ICANN公認のドメイン名でも、ドメイン登録代行業者であるレジストラによるドメイン名の販売価格は自由なのだが、複数のレジストラによって価格競争が起きるし、レジストラの価格が気に入らなければ他のレジストラにドメイン名を移管する権利も ICANN によって保証されている。しかし .jp.net における CentralNic は全ての .jp.net を管理するレジストリであり、いわば卸問屋の総元締めである。.jp.net の登録者がある程度増えた時点で卸問屋である CentralNic が卸値を上げたら、レジストラはそれに併せて販売価格を上げざるを得ない。これがICANN公認ドメインの場合は、ICANN との契約によりレジストリの卸値の値上げは制限される (gTLDの場合)。ちなみに .com のレジストリである Verisign の場合は年間7%以上の値上げをする事はできない契約になっている。

第3に、ICANN非公認である以上、ドメイン所有権が正式に認められている訳ではないので、ドメイン所有者である事を証明しなければならないサービスが使えない事がある。

.com などのドメイン所有権を土地の所有権に例えるならば (domain とは本来領土や領地を指す言葉である)、.jp.net の所有者は言わば CentralNic の土地の一部を借りている借地人のようなもので、土地そのものを所有しているとは認められない。具体例としてこちらのフォーラムでのディスカッションによると、現在 Google のウェブマスターツールでは、.jp.net は正式なドメインとは認識されずサブドメインとして扱われ、一部の機能が制限されるようである。ドメイン所有者が GMO の お名前.com のサポートに問い合わせた所、ウェブマスターツールの事も知らない様子で「googleさんの仕様の問題では?」と答えたとの事だ。たとえ仮にそうだとしても Google に正式なドメインとして扱われないなら、サイト運営者には様々な不利益が発生するだろうに、ドメイン登録業者のサポートスタッフがこの問題意識の無さである。

結論

私個人的には .jp.net を取得する魅力をまったく感じないが、現在の価格が安いという事もあり、どうしても使いたいドメイン名が既に取得されてしまっているという人が、上記のような問題点を認識した上で使うならあまり問題はないだろう。ただ現状 お名前.com や Value-Domain のサイトでそれらが説明されていない以上、ほとんどのユーザーはそういう問題を認識しないままドメインを購入してしまうと思うので、情報を共有する意味も込めてこのページを作成した次第である。本来なら お名前.com や Value-Domain がその辺のリスクをきちんと説明した方が、あとあとのサポートコストが安く済むと思うのだが…