輪るピングドラムを観た感想

テレビアニメ「輪るピングドラム」を観た。

おそらく多くの視聴者が同じ感想を持ったであったろうが、この作品には完全にやられた。事前に読んでいた簡単なあらすじから推測していたのは、ファンタジーの要素が少しからんだホームドラマのようなイメージだったのだが、そんな予想をはるかに超える展開が待っていた。

両親のいない小さな家で暮らす二人の兄(冠葉と晶馬)と一人の妹(陽毬)。陽毬は病に犯されていて余命いくばくも無い。冠葉と晶馬は陽毬を家族の思い出の場所である水族館に連れていき、ペンギンの帽子を買ってあげるのだが、そこで陽毬は倒れ搬送先の病院で息絶えてしまう。愛する妹の死に悲嘆にくれる冠葉と晶馬だったが、ペンギンの帽子を陽毬が突然起き上がり「生存戦略~!」と叫んだかと思うと、冠葉と晶馬は異世界に飛ばされ、そこには性格も変わりド派手な衣装に身を包んだ陽毬が現れ、二人に「陽毬を助けたければピングドラムを探せ」と命じる。何を言ってるのかわからないと思うが(以下略)

いやあ、なんと言うフリーダム(笑)。冒頭からのシリアス展開を見事に打ち砕く超展開。そこには脈絡も無ければ深い意味も無く、ただただ呆気に取られてしまった。冷静にストーリーを分析すると、あらすじから推測されたファンタジーの要素が少しからんだホームドラマと大きな違いは無いのだが、完全に不意打ちをくらってしまった形で、しばらくは素直にストーリーを追っている自分がいた。

中盤にかけては少し慣れがでてきのか展開に中だるみも感じ、終盤に入るとそれまでの伏線を回収するために少々説明くさい退屈な描写が続いたが、クライマックスを迎える最終盤のシリアス展開の最中でもペンギン達がコミカルなやり取りを続けるという、かつてない冒険的な試みはすごく評価できると思う。娯楽としてアニメを楽しみたい私のような人間にしては、この手の物語終盤のシリアスの押し付けがいつも退屈で仕方が無いからだ。全24話のオリジナルアニメで、全編を通してそれなりに楽しんで見れたのは随分と久しぶりのような気がする。

あともう一つこの作品ついては私が評価したいと思う点は、1995年に起きたあの地下鉄サリン事件をモチーフにしているという事である。大勢の命が失われた事件を題材にする事を不快に思う人もいるであろうが、これがアニメではなく実写映画であったらば同じように不快と思うだろうか。人の命が云々というなら、数多くの戦争映画が、フィクション・ノンフィクションに関わらず映画賞を受賞している事実についても同じように不快なのであろうか。映画に限らず過去の事件を題材にした作品は多く、その背景となった時代の世相を上手く描いた作品は高い評価を受けている。この作品がその意味で名作に値するか否かは別にしても、アニメであるからという無意識化にある印象だけで不謹慎だとレッテルを貼るのには疑問を感じる。またその手の言われのない批判を受ける事を覚悟した上で、あえて題材に地下鉄サリン事件を選んだ点について制作陣を評価したい。

作品全体に対する評価としては上でも言った通り、冷静にストーリーだけを見たならば他作品と比べて特に面白いという訳でも無かったと思う。しかしアニメというメディアの利点を最大限に活用した冒険的な試みがたくさんあったというだけで、高い評価をつけても良いと思う。