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.tc ドメインが突然の値上げ ccTLD を取得する際は気をつけよう!

先日2chのとあるスレッドで、こういう発言をしている人がいた。

2文字.tc持ってるんだが
更新料が4060円→50万円に突然値上げされた的な連絡来てワロタw
ワロタ…

それとは別にWEB上にはこんな記事を上げている人もいる → ドメインがいきなり120倍値上がりした

一応解らない人のために説明すると、.tc というのはWEBサイトなどのURLに使われるドメインの一つで、よくある .com とか .jp と同じものだと思ってもらって構わない。そのドメインの中でもこの .tc は ccTLD (country code Top Level Domain / 国別コードトップレベルドメイン) と呼ばれるものの一種で、.jp が日本の ccTLD なのに対し、.tc はイギリスの海外領土、タークス・カイコス諸島の ccTLD である。「国別」なのにどうして海外領土にも ccTLD があるのかというと、そもそも “country” という言葉の意味が現代日本語の「国」とは微妙に違うからなのだが、ここではその説明は割愛する。

しかし年額4060円だったドメイン更新料がいきなり50万円とはひどすぎる。およそ123倍だ。第二次大戦前のドイツじゃあるまいし、ハイパーインフレにもほどがある。自分自身も何個かドメインを所有している事もあり、あまり他人事とは思えないので詳細を知らべてみた。

まず、ドメインの登録や運営に関わる業務を管理するレジストリと呼ばれる団体を調べてみると、.tc のレジストリは AdamsNames と言う名前のイギリスの営利企業である。この会社は他にも .gd (グレナダ)、.vg (ヴァージン諸島)という ccTLD のレジストリもやっているらしいが、そちらは値上げされていない。.tc の値上げはこの AdamsNames が2012年8月16日に規約を改正したのと同時に行われたらしい。海外のサイトだが、こちらの規約の改正3日前に書かれた記事に、AdamsNames から突然の値上げを要求されたと書かれている。

そこで新しい規約の内容を読んでみると、ドメインの卸価格については以下のように書いてある。

4.7 The Annual Fees are as follows:
Domain Price
.TC domain 3+ characters 45 GBP
.TC 2 characters (xx.tc) 3,000 GBP
.TC 1 character (x.tc) 6,000 GBP

4.8 The Annual Fees do not include any applicable value added tax (VAT). For Customers who are UK and European Union residents, the UK VAT rate of 20% will apply to the Annual Fees. EU companies who provide a valid VAT Registration number shall be issued an invoice without VAT being charged.

年間の更新料は3文字以上のドメイン(例: xxx.tc)については45ポンド、2文字.tc が3,000ポンド、1文字.tc が6,000ポンドとなっている。しかもこれは税別なので、ドメイン登録を請け負う レジストラ (レジストとは別物) がEU加盟国の企業だった場合、さらに 20% の VAT (Value Added Tax / 付加価値税) を支払わなければならない。ここでの Customers は本来ドメイン登録者本人の事だと思うので、それならば VAT を支払う義務はないと思うのだが、実際の事務処理がどう行われているのか不明なので VAT は支払うものと仮定する。

件の人のドメインは2文字.tcなのでドメインの卸価格が3,000ポンド、推測するにおそらくレジストラはドイツの KeySystems なのでこれに VAT が加わって3,600ポンド。これを本日の為替レートで計算するとおよそ45万円になる。ただしこれはあくまで AdamsNames に支払う卸価格なので、内訳は不明だがこれにさらに KeySystems の儲けと、日本のリセラーである Value-Domain の儲けに消費税を加えて合計50万円という計算になるのだと思われる。

これでどうして4060円が50万円になったのかは解ったが、こんな事が許されるのだろうか。そこで規約の第9条と第10条を読んでみると非常に解りにくい表現で、「ドメイン期限更新と共にこの規約に合意したものとみなす」という様な事が書いてある。要するにドメイン所有者には何の権限も与えられていない。「嫌なら更新するな」と言わんばかりである。

まあ規約についてはネット企業ならこんなものかも知れない。しかしその規約をたてに100倍以上もの値上げをする企業が存在するとは普通思わないものだ。その点、今回の被害者?には同情を禁じ得ないが、それとは別に我々が得るべき教訓がある。

それは あまりメジャーでないドメインを取得する際には、レジストリの体質について考慮する必要がある、という事だ。

特に今回の AdamsNames の管理する .tc / .gd / .vg の3つは今後もいつ値上げするか解らないので避けるべきだろう。実は小国が外貨獲得のために管理を営利企業に外部委託している事の多いマイナーな ccTLD が突然値上げをした例は過去に何度もある。しかし現状ドメイン登録代行業者はドメイン登録数を増やす事ばかり考えているので、このようにユーザーの側で情報を共有して自衛するしかない。少なくともドメイン取得前にTLD名で検索をかけて情報を集めるくらいはするべきだろう。

ドメインは一度取得したら長くつかう事が多い。メジャーなドメインに比べて短くて良いドメインが取得できる点が魅力のマイナー ccTLD だが、そういうリスクもあるのだと言う事も忘れないようにしたいものだ。

※今回の件が Internet Watch でも取り上げられました
「.tc」登録料金、年間50万円へ120倍超の値上げも、英AdamsNames規約改定で – Internet Watch



.jp.net ドメインを取得する際の注意点

私が日頃ドメイン管理やサイト運用に愛用している Value-Domain というドメイン登録代行業者が、最近 .jp.net というあまり聞きなれないドメイン名を新規登録1年920円で販売している。

少し前に GMO インターネットグループの子会社となって以来、ドメイン価格を下げたりいろいろと割引キャンペーンをやっているのは良いのだが、このドメインはちょっと怪しげだったの調べてみたら、そのGMOのプレスリリースにその .jp.net についての記事があった。

それによると

“.jp.net”ドメインは、CentralNicがレジストリとして管理している「サードレベル.netドメイン」のうちの1つです。

GMOインターネット社 プレスリリースより

つまりこれは世界のドメイン名を管理する非営利団体である ICANN (Internet Corporation for Assigned Names and Numbers) 公認のドメイン名ではなく、あくまで民間の CentralNic という会社が販売しているサードレベルドメインだと言う事だ。.co.jp のような JPRS (日本レジストリサービス) が管理する属性型jpドメインでもない。解り易く言うなら無料ブログや無料サイトなどで取得できるサブドメインと本質的にはあまり変わらないと言うことだ。GMO は .jp.net がICANN非公認である事を曖昧にしているが、ドメインネーム.jp という登録代行業者はWEBサイトに「ICANN公認の新ドメインではありません」としっかりと記載している。ちなみにこの CentralNic は他にも .us.com , .uk.com , uk.net , .cn.com , .com.de など世界中で似たような事をしている。

さてこれによってどういう問題が起きるだろうか。

第1に、ICANN非公認である以上、知的所有権・商標権などに関するドメイン紛争が起きた場合、WIPO (世界知的所有権機関) による調停が行われない。

調停を行うのは営利企業である CentralNic であり、WIPO のアドバイスを受けて作成された独自の紛争解決ポリシーによって判断される。しかしこのようなポリシーがあった所で、営利企業である CentralNic の実際の判断の公平性が保証されている訳ではないので、CentralNic により多くの金を積んだ企業にドメイン名を取られてしまう、なんて事が起きる可能性は否定できないだろう。

第2に、ICANN非公認である以上、価格の決定は CentralNic の自由であり、いつ何時更新価格が跳ね上がるか解らない。

ICANN公認のドメイン名でも、ドメイン登録代行業者であるレジストラによるドメイン名の販売価格は自由なのだが、複数のレジストラによって価格競争が起きるし、レジストラの価格が気に入らなければ他のレジストラにドメイン名を移管する権利も ICANN によって保証されている。しかし .jp.net における CentralNic は全ての .jp.net を管理するレジストリであり、いわば卸問屋の総元締めである。.jp.net の登録者がある程度増えた時点で卸問屋である CentralNic が卸値を上げたら、レジストラはそれに併せて販売価格を上げざるを得ない。これがICANN公認ドメインの場合は、ICANN との契約によりレジストリの卸値の値上げは制限される (gTLDの場合)。ちなみに .com のレジストリである Verisign の場合は年間7%以上の値上げをする事はできない契約になっている。

第3に、ICANN非公認である以上、ドメイン所有権が正式に認められている訳ではないので、ドメイン所有者である事を証明しなければならないサービスが使えない事がある。

.com などのドメイン所有権を土地の所有権に例えるならば (domain とは本来領土や領地を指す言葉である)、.jp.net の所有者は言わば CentralNic の土地の一部を借りている借地人のようなもので、土地そのものを所有しているとは認められない。具体例としてこちらのフォーラムでのディスカッションによると、現在 Google のウェブマスターツールでは、.jp.net は正式なドメインとは認識されずサブドメインとして扱われ、一部の機能が制限されるようである。ドメイン所有者が GMO の お名前.com のサポートに問い合わせた所、ウェブマスターツールの事も知らない様子で「googleさんの仕様の問題では?」と答えたとの事だ。たとえ仮にそうだとしても Google に正式なドメインとして扱われないなら、サイト運営者には様々な不利益が発生するだろうに、ドメイン登録業者のサポートスタッフがこの問題意識の無さである。

結論

私個人的には .jp.net を取得する魅力をまったく感じないが、現在の価格が安いという事もあり、どうしても使いたいドメイン名が既に取得されてしまっているという人が、上記のような問題点を認識した上で使うならあまり問題はないだろう。ただ現状 お名前.com や Value-Domain のサイトでそれらが説明されていない以上、ほとんどのユーザーはそういう問題を認識しないままドメインを購入してしまうと思うので、情報を共有する意味も込めてこのページを作成した次第である。本来なら お名前.com や Value-Domain がその辺のリスクをきちんと説明した方が、あとあとのサポートコストが安く済むと思うのだが…