魔法使いの夜 感想

12日の発売から10日、少々遅ればせながら TYPE MOON の魔法使いの夜をプレイした感想などを書いてみる。

今作は同じ TYPE MOON の Fate/stay night みたいな選択肢で分岐するアドベンチャーゲームではなく、淡々と読みすすめるだけのビジュアルノベルとなっている。しかしこの手の同人作品としては一線を画した美麗なグラフィックと、多彩な効果演出が読み手をぐいぐいと引き付けていく。

肝心の物語の描写は第三者視点で特に主人公と呼べるような存在はいないが、魔法使いである蒼崎青子と、文明から切り離された村から青子の学校に転校してきた少年の静希草十郎の二人を中心に話は展開する。しかしこの草十郎もこの手の作品にありがちな、読者が感情移入して読めるように薄い味付けの性格をした優柔不断タイプや熱血正義漢タイプではなく、とんでもなくド天然というかとても面白い性格をしている。現代社会に対する知識の欠如や無欲さからくる言動は、割と濃い目の味付けの性格の多い周囲のキャラを全員ツッコミ役にさせてしまうほどで、感情移入どころか第三者的視点でこいつをもっと見ていたいと思わされた。

そういう学園を舞台にしたオカルティックな群像劇としては非常に面白い作品だと思ったが、Fate/stay night のような特殊能力を用いたバトル作品としてはいまいちといった所だろうか。もとより魔術師がメインシナリオに青子も入れて3人しか登場せず、その青子も破壊に特化した単純な魔術しか使えないという設定なので、魔術師を中心にバトルがあまり盛り上がらない。結局その周囲で奮闘する凡人であるところの草十郎の活躍がクローズアップされる結果となり、それはそれで面白いのだがどこか燃焼不良な印象が残ってしまった。

全体としてはメインシナリオから離れたサブシナリオを含めて結構なボリュームがあったのだが、上記のような理由からいまいち満足感は得られず、それでいながら続きがあれば早く読みたいという気持ちにさせられる作品だった。Wikipediaの記述によるとこの作品は本来3部構成だったそうで、今作はその第1部にあたるらしい。であるならシナリオ担当の奈須氏には第2部・第3部の製作を開始してもらい、なんらかの形でそれを発表してもらいたいと思っている。